50年の歳月、行商は神田から銀座方面だった。 10数年前から一軒ずつの訪問を止めて、神田西口駅前の ガード下の路上に商品を並べた。 昨夜降った雨の雫が所々落ちてくる。気をつけないと さび付いた雫でシャツにシミができる。いつ車が突っ込んできても 可笑しくない、かろうじて鉄柱に守られている。 そんなところで、椅子に腰掛たトメさんは、街の移り変わりを 見ながら、常連さんと楽しいおしゃべりに余念がない。 サラリーマンやOL、近くに住む人たちは此処に来ればおふくろさんに 会える。そんな気持ちでトメさんを慕っていたのだと思う。 トメさんは大きな荷物と一緒に子供の頃に感じた空気や風を 運んで来てくれたのだ。私もファインダーの向こうに遠い日の母や 叔母の姿を重ね合わせていた。