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FOTOLOGUE/フォトローグ
 
  FOTOLOGUE北京8/6
 
百年印象
独特の空間にフォトギャラリーも誕生。
中国のアーティストがいま注目するのは「国営工場」
  バイタル原口純子 
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中国の「国営工場」といえば、日本では暗いイメージばかり伝わっているのではないでしょうか。
こちら北京でも、経営不振の工場が次々に閉鎖され、失業者が大量に出ているニュースばかりで、国営工場=社会問題、といったとらえ方が普通です。でも、昨年あたりからアーティストたちを中心に、国営工場のビジュアルとしての美しさが急に注目され始めています。
中国の国営工場って、改めて眺めてみると、本当に独特の空間。
私がいま住んでいるアパートの近くにも、大きなセメント工場がありますが、大空に突き出た巨大な4本の煙突、全部に「社会主義建設」とか「毛主席万歳」とかスローガンがデカデカと描かれています。こんな煙突、世界にここだけですよね?モクモクと煙を吐き出している煙突を眺めるたび、「ああ、私は北京にいるんだなあ」と思います。
煙突だけでなく、レンガ造りの作業棟や、その外に無造作に走らせた太い給水パイプなど、「デザイン」ということを徹底的にしないでできた空間が、逆に見る人を惹き付ける力強い個性を生み出しているのです。
北京でこの魅力が急にクローズアップされるようになったきっかけは、北京の東部の、1950年代に建てられた、ある半導体工場でした。「798廠」と呼ばれるそこは、80年代に経営不振で操業を停止して以来、美大の学生などが建物の一部を少しずつアトリエに使うようになっていました。そこに昨秋、モダンアートのギャラリーが1つオープンしてから、あっという間にムーブメントに火がつきました。
私のまわりの友人たちなど、ギャラリーのオープニングを見に行ったその日に、即、同じ敷地の工場の建物を借りる交渉をしていたくらい。
話題になりそうな物件には、みな鼻が利くんですね。
それから半年ほどで、雑誌でも「国営工場物件特集」などという企画がよく見られるようになり、国営工場の建物を改造したオフィスやショップやレストラン、つまり「ロフト」が、いま北京では一番おしゃれな空間、ということになっています。
6月28日、オープニングパーティがあった「百年印象」も、そんなムーブメントのなか「798廠」の敷地に誕生したフォトギャラリー。国営工場の建物を再生させた空間は、約200m2。写真家と写真機材店を経営する二人の北京人の共同経営、北京初の写真専門のギャラリーです。
工場を借りた経営者たちの話によると、家賃は1平方メートルあたり、なんと0.8元(約12円)!!200平方メートルでも、約3万円弱という東京価格からすると、信じられない安さ。格安値段で、広いスペースを借りられることから、アーティストたちにアトリエとして使われるようになったのだ。
リーズナブルなスペースからクリエーョンが育まれる、うらやましい環境。内装もお金をかけずに知恵を駆使したシンプルスタイル。アトリエに借りるアーティストたちにとっては腕の見せ所でもある。でも、最近のロフト人気で、家主の工場側も強気になり、家賃はぐっと上昇中とか。残念。
写真展を開いたのは、1970年生まれの若手・周海(ジョウ・ハイ)氏。国営工場の空間、そして労働者に魅かれ、北京や地方の巨大国営工場を回って5年間、撮り続けた作品、約30点の個展です。
彼の目が映しているのは、時代に取り残された国営工場とその労働者の姿。おそらく国営工場の大部分は、 周海の写真そのままの状態なのですが、ごく一部、北京の国営工場だけは魅力を再発見され、最先端の空間として評価されつつある。
写真の中と外の激しいギャップ。写真を眺め、それが展示されるギャラリーを改めて眺めると、中国の時代の流れの激しさ、その波に乗れるもの、取り残されるものの落差、それがはっきり見えてくる、心に残る写真展でした。
工場の建物、半年前までは廃墟のようだったのが、かなりクリーンアップされた
ギャラリー「百年印象」外観の一部
「百年印象」内部

 
 
 
中二階から眺めたギャラリー内部
百年印象=北京市朝陽区酒仙橋4号798廠内
tel:6438-1784
(営業時間)15:00〜18:00
周海の個展は7月15日まででした。無料。
インタビューする原口と写真家・周海
周海本人。1970年桂林生まれ。
大学では電子工学を学び、卒業後はエンジニアに。写真好きの友達に影響されて、なんとなくスナップを撮り始めたのが95年ころ。96年、思い立って北京に上京、中央民族大学の写真コースで1年間本格的に勉強。卒業後は、国営工場をテーマに撮り始める。
「かつて、国営工場の労働者は中国のヒーローだった。時代の主流からいま、底辺になってしまった彼らを記録したくなった」
写真家 周海のホームページ http://www.zhouhai.com/
「百年印象」のホームページ http://www.798photogallery.cn/