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FOTOLOGUE/フォトローグ
 
  FOTOLOGUEメルボルン 5/18
 
メルボルン
記録と記憶を重ねて
  久保田真理 
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写真は記録。その記録と自分の記憶を重ねて作品をつくるアーティストに、ここメルボルンで出会いました。ワーキングホリデーで滞在中の戸沢佳代子さんは、今年3月末から4月中旬にかけて個展を開催。今回は、 “Around the Record” (記録のまわり)、 “Behind the Record” (記録のうしろ)、そして今回の個展から初めて登場した “Traveling series” (トラベリング シリーズ)を発表しました。個展開催中、写真から作品が生まれるまでの経緯や、写真に対する思いなどを伺ってみました。

「わずかな差で手元に残った景色と残らなかった景色、私はその手元に残った記録から記憶をたどり、一枚の絵の中に記録された景色とその外側を再生しようと思いました」、と戸沢さん。こうして生まれた “Around the Record” (記録のまわり)は、4年前の旅がきっかけでした。戸沢さんは 2000 年に3ヶ月間、アメリカを旅行。初めての長期旅行。そして、買いたての EOS Kiss3 。 36 枚撮りフィルムで 20 本とかなりの枚数を撮影したにもかかわらず、帰国して写真を見返すうに、 仲がよかったのに撮り忘れてしまった友達の存在に気づいたのでした。その友達 顔を思い出そうとすればするほど、記憶が曖昧になっていく……。焦燥感や寂しさにかられ、記録と記憶を合わせて絵を描いたのが始まりでした。
何度も、じっくりと写真を見つめ、自分の記憶を重ねる戸沢さん。こうして記録と記憶の関係を模索していくうちに、今度は小さな写真の中でいろいろな出来事が繰り広げられていることに気づき、気になり出しました。「主役として撮った人物の後ろ側、視点を変えると、その人物によって隠された世界ではどんなことが起きてたのだろう」。この想像から始まったのが、 “Behind the Record” (記録のうしろ)でした。記憶よりも想像の方が大きくなるシリーズ。どこまでが記憶でどこからが想像なのか、その線引きが難しいと感じていた戸沢さんは、記憶だけにこだわらずに想像を膨らまして、変動的な記憶というものを作り上げていいのではと思うに至りました。

オーストラリアに来てから、戸沢さんは日本の家族のことを、特に姉夫婦と彼らの子供をよく思い出すようになったと言います。お姉さんは自分と違ってあちこちに旅行するタイプではなく、子供がまだ小さいことを考えると、なかなか旅行はできない状況。戸沢さんが旅行中にとてもいい景色に出会うと、「お姉さんたちに見せてあげられたら……」という思いがこみ上げてきたそうです。物理的にできないのなら、せめて自分の絵の中で旅行させてあげることはできないだろうか。そんな気持ちが今回初めて登場した “Traveling series” (トラベリングシリーズ)へとつながっていきました。

 

個展は今回で5回目。今までは旅が終わってから創作していたため、作品中の登場人物が自分の作品を直接見ることはありませんでした。今回は、旅の途中での創作、展示となり、今までとは状況が異なります。登場した本人が直接見て、「ここに写っているのは、僕の足なのかなあ」と言いながら面白がってくれたりしたそうです。戸沢さんは、その人の中に記憶を刻み込んだ喜びを感じました。「作品を作るにあたって、じっと写真を見て過ごします。同じ写真をこんなに隅から隅まで、ずっと眺めている人もそういないんじゃないかな(笑)。私の作品は『記録と記憶』というコンセプトの強いものですが、見て美しいと思えるものを残していきたいと思います」。

戸沢佳代子展 “Record and Remembrance”
2004 年 3 月 30 日〜4月 10 日 Seventh Gallery 15Gertrude Street, Fitzroy


戸沢佳代子 プロフィール
埼玉県出身。武蔵野美術大学大学院 造形研究科油絵コース修了。 2001 年より東京にて個展4回、グループ展3回開催。現在ワーキングホリデーでメルボルンに滞在中。